望遠鏡づくりの名人 法月惣次郎

南米チリの標高5000mの高地に電波望遠鏡群ALMA(アルマ)が製作されるなど、現在、日本の電波天文学は世界トップクラスです。かつて、多くの電波望遠鏡を製作し、職人としてその発展を支えたのが法月惣次郎さんです。
法月惣次郎さん(1912年~1995年)は、1951年名古屋大学からの依頼で日本初の赤道儀式太陽電波望遠鏡を製作しました。その後、全国の大学や研究所などに350台あまりの望遠鏡を製作し、日本の天文学の発展に大いに貢献しました。晩年には光学式望遠鏡も手がけ、法月さんが最後に製作した望遠鏡が当館の大型望遠鏡です。
法月惣次郎さん 概略
1912年(明治45年)、法月惣次郎さんは、和田村(現焼津市)に生まれました。和田村立和田高等小学校を卒業後、鍛冶屋に丁稚奉公し職人としての人生を始めます。25歳で独立し、自身の鉄工所を興しました。その後、島田理化工業の下請けの縁で1949年(昭和24年)名古屋大学から電波望遠鏡製作の依頼を受けます。1951年(昭和26年)、愛知県豊川市に完成したこの望遠鏡は日本初の赤道儀式太陽電波望遠鏡でした。

当時は珍しいオートバイで焼津・豊川間を往復

日本初の赤道儀式パラボラ電波望遠鏡
日本には電波望遠鏡製作の秘密工場がある!?
その卓越した技術と実直な人柄が多くの天文学者から支持され、法月さんは、東京大学や早稲田大学など多くの大学や研究所に350台以上もの電波望遠鏡を製作しました。当時、電波天文学の発展は目覚ましく、「日本には秘密工場があるのか?」と言われるほどでした。

かつての名古屋大学空電研究所 ここに法月さんが製作した望遠鏡は120台以上です。


1957年東京大学東京天文台(現・国立天文台三鷹)に納めた1.2mの電波望遠鏡
光学式望遠鏡は9台製作
晩年、法月さんは、人が直接目で覗くことができる「光学式望遠鏡」を製作しました。9台の光学式望遠鏡のうち当館の望遠鏡を含め6台が現在も稼働中です。
※駿台学園高等学校軽井沢一心荘
1984年製作 口径75cm 一般向けの公開は行っていません。
法月惣次郎(1912年~1995年)

1987年吉川英治文化賞受賞記念写真

1993年、ディスカバリーパーク焼津の望遠鏡完成を記念して撮影された写真法月さんの自宅工場にて
法月惣次郎さん 略歴
| 年 代 | 法月氏の出来事 |
|---|---|
| 1912(明治45)年1月1日 | 和田村で、父桂作と母いくの長男として生まれる |
| 1924(大正13)年3月 | 和田村立和田高等小学校6年卒業 |
| 1926(大正15)年3月 | 和田村立和田高等科2年卒業 |
| 1926(大正15)年4月 | 焼津町の松永重兵衛さんで7年間の丁稚奉公 |
| 1936(昭和11)年4月 | 法月鉄工所を開業 |
| 1949(昭和24)年2月 | 名古屋大学空電研究所から、電波観測用のパラボラアンテナ(電波望遠鏡)を初めて受注し、試作に着工。 |
| 1951(昭和26)年 | 名古屋大学空電研究所に赤道儀式太陽電波望遠鏡1号機を初納入 |
| 1987(昭和62)年4月 | 吉川栄治文化賞受賞(75才) |
| 1988(昭和63)年4月 | 科学技術長官賞受賞 |
| 1990(平成2)年12月 | 宇宙電波懇談会賞受賞 |
| 1993(平成5)年3月 | 焼津市に口径80cm天体望遠鏡を納入 |
| 1995(平成7)年3月12日 | 83才にて永眠 |
法月惣次郎さん 製作望遠鏡一覧
| 設置年 | 設置先 | 望遠鏡・架台・その他 | 現在の状況 | |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 1951年 | 名古屋大学空電研究所 | 3.75GHz・2.5m強度計1基 日本初の赤道儀式太陽電波望遠鏡 |
1957年に作り替え(11) |
| 2 | 1952年 | 東京大学東京天文台 現・国立天文台 |
3GHz・2m1基 | 1962年停止 |
| 3 | 1953年 | 名古屋大学空電研究所 | 4GHz・1.5m干渉計5基 | 1968年停止 |
| 4 | 1954年 | 名古屋大学空電研究所 | 4GHz・1.5m干渉計3基(合計8基) | 1968年停止 |
| 5 | 1955年 | 東京大学東京天文台 現・国立天文台 |
太陽電波望遠鏡 | 不明 |
| 6 | 1956年 | 文部省国立科学博物館 現・国立科学博物館 |
1.5m太陽電波望遠鏡1基 | 不明 |
| 7 | 1956年 | 名古屋大学空電研究所 | 3.75GHz・1.5m強度偏波計1基 | 1979年作り直し (45) |
| 8 | 1956年 | 名古屋大学空電研究所 | 9.4GHz・1.2m強度偏波計1基 | 1979作り直し(45) |
| 9 | 1957年 | 東京大学東京天文台 現・国立天文台 |
9.5GHz・1.2m強度偏波計1基 | 不明 |
| 10 | 1957年 | 名古屋大学空電研究所 | 1GHz・3m強度偏波計1基 | 1979年作り直し(45) |
| 11 | 1957年 | 名古屋大学空電研究所 | 2GHz・2.2m強度偏波計 (1951年製作の2.5m強度計を改修) |
1979年作り直し(1)(45) |
| 12 | 1958年 | 名古屋大学空電研究所 | 3.75GHz・1.5m強度偏波計1基 (八丈島金環観測用に移動可能) |
1959年停止 翌年9.4GHzに部品の一部を使用 |
| 13 | 1959年 | 名古屋大学空電研究所 | 9.4GHz・1.2m干渉計8基 | 1966年分解しオワンを新設(22) |
| 14 | 1961年 | 名古屋大学空電研究所 | 9.4GHz・1.2m干渉計8基 (合計16基に) |
1966年分解しオワンを新設(22) |
| 15 | 1961年 | 名古屋大学空電研究所 | 9.4GHz・1.2m干渉計8基 (合計16基に) |
不明 |
| 16 | 1962年 | 名古屋大学空電研究所 | 9.4GHz・3m干渉計2基 (旧9.4GHz干渉計 合計18基に) |
1966年分解しオワンを新設(22) |
| 17 | 1964年 | 東京大学東京天文台 現・国立天文台 |
17GHz・0.8m強度偏派計 | 1972年停止 |
| 18 | 1964年 | 東京大学東京天文台 現・国立天文台 |
17GHz・1.2m干渉計12基 (1970年野辺山に移設。1978年改良) |
1992年停止(30) |
| 19 | 1965年 | 名古屋大学空電研究所 | 1GHz、2GHz、3.75GHz偏派計用 ホーンアンテナ |
不明 |
| 20 | 1965年 | 名古屋大学空電研究所 | 1GHz・5m干渉計3基 | 不明 |
| 21 | 1965年 | 名古屋大学空電研究所 | 9GHz絶対測定用ホーンアンテナ | 不明 |
| 22 | 1966年 | 名古屋大学空電研究所 | 9.4GHz・2mを32基、3mを2基の干渉計(合計34基)。1959年、1961年、1962年のオワンを作り替える | 1994年停止(13)(14)(16) |
| 23 | 1966年 | 郵政省電波研究所平磯支所(現・通信情報研平磯太陽観測センター) | 10m電波望遠鏡 | 不明 |
| 24 | 1967年 | 名古屋大学空電研究所 | 3.75GHz・3m干渉計34基 | 1994年停止 |
| 25 | 1968年 | 名古屋大学空電研究所 | 太陽電波望遠鏡(1.5m位) | 停止時期不明。当館のモニュメント |
| 26 | 1968年 | 東京大学東京天文台三鷹(現・国立天文台三鷹) | ミリ波6m電波望遠鏡(架台のみ) | 国立天文台三鷹に移設(稼働はしていない) |
| 27 | 1968年 | 東京大学東京天文台三鷹(現・国立天文台三鷹) | 35GHz・0.3mアンテナ | 不明 |
| 28 | 1969年 | 郵政省電波研究所 | 衛星磁気モーメント測定装置 | 1974年停止 |
| 29 | 1969年 | 名古屋大学空電研究所 | 9.4GHz・1.2m干渉計16基(合計52基) | 1994年停止 |
| 30 | 1970年 | 東京大学東京天文台野辺山 | 17GHz・1.2m干渉計14基 | 1992年停止。展示物として改修(1台は当館天文台に)(18) |
| 31 | 1970年 | 東京大学東京天文台野辺山 | 160MHz・8m複合干渉計3基 160MHz・6m複合干渉計14基 |
1989年停止6m西はりま天文台でモニュメントに |
| 32 | 1970年 | 名古屋大学理学部 | 35GHz干渉計16基 | 不明 |
| 33 | 1970年 | 名古屋大学空電研究所 鹿児島宇宙空間観測所 |
5GHz・1.2m電波望遠鏡1基 | 不明 |
| 34 | 1970年 | 木更津工業高等専門学 | 1.5m電波望遠鏡 | 稼働中 |
| 35 | 1973年 | 京都大学理学部上松観測所 | 1.1m赤外線赤道儀式望遠鏡 日本初の赤外線望遠鏡 |
停止 西はりま天文台で展示 |
| 36 | 1974年 | 東京大学宇宙研究所内之浦実験場(現・宇宙航空研究開発機構内之浦宇宙空間観測所) | 60cm反射式望遠鏡 | 2009年撤去 |
| 37 | 1974年 | 名古屋大学空電研究所 | 3.75GHz・3m干渉計17基(1967年製作の34基と合わせて計51基) | 1994年停止 |
| 38 | 1974年 | 建設省国土地理院 | 40cmレーザー望遠鏡 | 不明 |
| 39 | 1975年 | 東京大学東京天文台堂平観測所(現・堂平天文台(都幾川村所管)) | 3.8m月レーザー望遠鏡 1992年よりオーストラリアに移設。ガンマ線望遠鏡として改良し使用された。 |
停止 |
| 40 | 1975年 | 宇宙開発事業団筑波宇宙センター(現・宇宙航空研究開発機構つくば宇宙センター) | 磁気観測装置4基 | 稼働中 |
| 41 | 1975年 | 海上保安庁伊豆白浜観測所 | 60cm赤道儀式反射式望遠鏡 海上保安庁旧美星水路観測所へ移設 |
井原市星空公園にて稼動中 |
| 42 | 1976年 | 環境庁国立公害研究所 現・国立環境研究所 |
1.5mレーザ゙ーレーダー望遠鏡 | 不明 |
| 43 | 1977年 | 東京大学東京天文台野辺山 | 7~600MHz・8m動スペクトル計 1994年一旦停止。みさと天文台へ。2006年パラボラを新しくし稼動させる |
みさと天文台にて稼動中 |
| 44 | 1978年 | 東京大学東京天文台野辺山 | 17GHz・0.85m強度偏波計 | 稼働中(17) |
| 45 | 1979年 | 名古屋大学空電研究所 | 1GHz・85cm、2GHZ・1.5m、3.75GHz・2m、9.4GHz・3mの強度偏派計を作りなおし | 3.75GHzは1994年。それ以外は野辺山で稼働中 (7)(8)(10)(11) |
| 46 | 1979年 | 海上保安庁下里水路部観測所 | 62cm赤道儀式反射式望遠鏡 | 2013年10月から香川県の望遠鏡博物館で保管 (停止年不明) |
| 47 | 1981年 | 東京大学東京天文台野辺山 | 90GHzミリ波太陽電波望遠鏡 | 停止 |
| 48 | 1982年 | 名古屋大学理学部 | 4mミリ波電波望遠鏡 | 停止 |
| 49 | 1983年 | 東洋大学工学部 | 4mミリ波電波望遠鏡 | 停止 |
| 50 | 1983年 | 東京大学東京天文台野辺山 | 35GHz・0.3m強度偏波計 | 稼動中 |
| 51 | 1984年 | 東京大学東京天文台野辺山 | 80GHz・0.25m強度偏波計 (35GHzの両隣に取付) |
稼動中 |
| 52 | 1984年 | 北軽井沢駿台天文台 | 75cm経緯儀式反射式望遠鏡 | 稼動中 |
| 53 | 1985年 | 東京ガス | 30cmレーザーレーダー望遠鏡 | 不明 |
| 54 | 1985年 | 日原(にちはら)天文台 | 75cm経緯儀式反射式望遠鏡 | 稼動中 |
| 55 | 1987年 | 栃木県子ども総合科学館 | 75cm赤道儀式反射式望遠鏡 | 稼動中 |
| 56 | 1990年 | 早稲田大学理工学部 現・早稲田電波宇宙物理観測所 |
2.4m電波望遠鏡64基 | 稼動中 |
| 57 | 1993年 | 美星天文台 | 101cm赤道儀式反射式望遠鏡 | 稼動中 |
| 58 | 1993年 | ディスカバリーパーク焼津天文科学館 | 80cm赤道儀式反射式望遠鏡 | 稼動中 |
その他の納入先
東京大学東京天文台木曽観測所、中部工業大学、山形大学理学部、上智大学、
NHK技術研究所、電電公社通信研究所、三菱電機鎌倉工場、日本電子、日立電子
郵政省電波研究所、JAXAクリスマス島ダウンレンジ局(架台のみ) 他
参考
「宇宙へのパイオニア」、野辺山宇宙電波観測所ホームページ、
天文月報、国立天文台ニュース、名古屋大学機関誌、JAXA広報誌 他


①井原市星空公園(海上保安庁旧美星水路観測所/岡山県井原市)
②にちはら天文台(島根県津和野町)
③栃木県立子ども総合科学館(栃木県宇都宮市)
④美星天文台(岡山県井原市)














